8月の秘密

朝、母親に公民館に置いてある資料をとってくるように、と頼まれた。当然のように何の予定も無かったので別にいいよと答えて、それを昼前までには済ませようと思った。公民館は通っていた小学校の隣に建てられている。

気持ちが"行こう"というまでパソコンを触っていたら、いつのまにか風が強くなっていた。強風の中を自転車で進むことを想像しただけでうんざりしたので歩いていくことにした。誰かが散歩をすると発見があるという文章を書いていたのことを思い出して、何かあるかもしれないしそれもいいかなと思った。

小学校へ歩いていったのは卒業式が最後だった。卒業してからは立ち寄った記憶がない。飼い犬も連れて行こうかと考えたけど、太陽が照ってアスファルトが高温になっていそうだったのでやめた。犬の散歩にはなにかと理由をつけて行かない。

小学校には公園の横を通り、道路を横断して学校の塀にそって進む。公園の周囲は緑色のコーティングがされた針金のフェンスで囲われていた。小学生の時にここを歩いたときはフェンスの穴から公園が見えていたのに、背が伸びたおかげで視界をさえぎる人工物は何一つ無かった。水飲み用の水道があった。水道からは水が流れ続けていて、草が生えている地面が水と混ざり合って茶色く濁っていた。ベンチには男子小学生が二人座っている。少し開いているスペースで遊戯王カードを山のように積んで、強く吹く風でカードが飛ばされないようにして見せ合いをしていた。公園の入り口には女子中学生が3人いて、教員のグチを言い合っていた。

小学校の校門にたどり着くには、ほんのちょっとだけ坂を登らないといけない。その坂道にあった毎年刈られてしまうイチョウの木も、窪んだままのアスファルトも、安全のために塗られた黄色の線も、やけに鮮やかな青色をした校門も何一つ変わっていなかった。

年をとったんだなという感情と、何一つ変われなかったんだなという感情が同時に発生して切なくなった。

公民館で頼まれていた書類を受け取って外に出ると、向かいの空き地に水溜りを見つけた。水面には、雲と空が風で揺れていた。

夏は嫌いだ。